井上さんに初めてお会いしたのは2003年、今でも通っている書道教室。
退職されて本格的に書道が学びたいと目を輝やかせていたのが印象的でした。
当初一般的な楷書や行書が書けるくらいのイメージでしたが、先生の指導と真面目で努力家な井上さんは古典をしっかり学ばれ、見る見るうちに上達。
大きな展覧会に出展できるようになるまで時間はかかりませんでした。
また、ユーモアのある井上さんは教室でもムードメーカー的存在で、私にとっても刺激になり尊敬できる存在でした。
何より高校時代のように切磋琢磨できる書道仲間が増えたことが嬉しかったです。
展覧会へ出品する前には一緒に合宿をし、おにぎりを食べながら励まし合ったり、入賞すると井上さんのご自宅で祝賀会をしたり、いつも気にかけていただき優しく接してくださいました。
その井上さんが教室へ姿を見せなくなったのは去年の秋頃。
私もなかなか教室に行けず、病気で休まれていると知ったのは今年に入ってからでした。
気にはなりながらもきっとまた教室で会えると信じていたとき2月頃お電話が。。。
「10月に個展をするので手伝ってほしい」
「もちろんです!」元気になったんだと嬉しい気持ちでいっぱいでした。
ところが5月頃、個展が7月に変更になったとの連絡。
「パフォーマンスをするから大きな下敷きを貸してほしい。」と。
作品が完成したから個展を早めたのか、様態が悪化されたのか…、不安な思いでした。
個展初日の7月17日、朝から展示のお手伝いに伺うと150点もの作品があることに驚き、さらに奥様から事実を聞き信じられませんでした。
病院から直接会場に来られた一回り小さくなった井上さんは私の手を握り、
「アトリエの工事は無事に進んでる?」と笑顔で気遣かってくれるいつもの井上さんでした。
7月20日2:00〜いよいよ待ちに待った書道パフォーマンス。
点滴をはずし、襷をかけ、入場された姿を見て涙が溢れてきました。
書道は体力がいるにも関わらず、最後までゆっくり力強く書き続け、下敷きいっぱいに広がった和紙に書き終えた文字は「愛」でした。
その一週間後、井上さんは旅立たれました。
全国囲碁大会に出場されるお孫さんに「誠」という字を書かれた約10分後だったそうです。
ここ何年か何のために書道を続けているんだろう…と思うことがありました。
焦って空回りしてしまうことも多々ありました。
しかし、井上さんの姿を見て思いました。
好きだから、書くことがただただ好きだから続けているんだなと。
そして、書道を続けていたからこそ井上さんに出会うことが出来たし、このブログを見てくださっている方々、書道をしていなかったら出会うこともなかった大切な方がたくさんいます。
貴重な経験も与えてもらい、多くのことを学ばせていただき、書きたいと思ったときにいつでも書ける恵まれた環境にいます。
そこにちゃんと日々感謝して、一期一会を大切にし、これからもどんなカタチであれ広い視野をもって書道を継続していきたい。
と、思っています。(今更ですが…)
言葉で伝えるのは難しく上手くまとまりませんが…、
思い出すだけで涙が止まらなかった井上さんのことに対してやっと整理がつき、今は感謝の言葉しかありません。
心よりご冥福をお祈りいたします。